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陶板レリーフ「湘南讃歌」 原画・監修:ルイ・フランセン
JR東日本 藤沢駅 改札外コンコース正面 1980年6月完成 原画を見る
ルイ・フランセンパブリックアート作家(壁画、ステンドグラスなど) この陶板レリーフを制作するにあたって、私はいくつかの新しい試みを行ないました。その中で一番大切なことは、焼物としての独自性を尊重したことです。最初に原画という平面的な世界を作って、それを立体的にトランスレートするのではなく、元から陶板レリーフを制作するという立場に立って創作したことです。世界の最高水準にある日本の陶芸技術をじゅうぶんに駆使した、画期的な作品を創りたいという意欲が、企画段階の当初から私の心の中に燃えさかっていました。
もうひとつの重要な試みは、公共広場の芸術に、古くから日本で育まれてきた大衆的かつ伝統的な焼物の技法を導入したことです。陶器づくりそのものは東洋から紹介されてヨーロッパにもいくつか代表的なものがありますが、火鉢や茶碗のようなものはないのですね。私は、そうした日常的なものの中に、飾りものではない豊かな世界を見るのです。それは、かなしいことに日本人さえ忘れ去ろうとしている世界で、技術者も少ない。大変残念なことです。私は、この作品を通じて、大衆的な味わいをもった日本の陶芸の良さを再発見したいと思いました。
さらにもうひとつ独創的だと自負する点は、古代バビロニアの壁画に見られるきわめて特殊な技法を再現したことです。それは本作品の人物が着ている服装に表現されています。モチーフになっている藤沢の風物―ヨット、花火、江の島、遊行寺、そして広重の版画からヒントを得た女性は、具象的にではなく、あくまで抽象的に一枚の絵としてまとめようと努力しました。全体として焼物のタピストリーですね。これは、日本では初めての試みだと思います。
藤沢駅は、湘南に向かう若人が利用する駅だそうですが、ダイナミックな構成、迫力から言って、若者たちに何かを訴える作品という点でも成功したと私は信じています。
「われわれに欠けているものは芸術家ではない。大衆である。芸術に意識をもつ大衆ではない。無意識的に芸術的な大衆である」
本作品の企画推進を行った(財)日本交通文化協会は、このことばを旗印に公共芸術の拡大と高揚のために大変努力しています。確かに私の生れたヨーロッパやアメリカなど、いわゆる先進国では公共建築物に必ずといっていいほど彫刻や壁画が設置されシンボル的存在となっています。その点日本はまだまだ諸外国に学ぶことも多いでしょう。しかし、藤沢駅のように、駅が公共の広場であるという考えから、そこに大衆のための芸術を設置し、人間的なあたたかみを与え駅の美化を進めようとすることは大変有意義なことだと思います。このような運動が全国的な規模でひろがっていくことを、私も壁画家の一人として期待しています。
最後に、公共壁画のために快くスペースを提供してくださいました国鉄ご当局、加えて側面から並々ならぬご協力をいただきました(財)日本交通文化協会に心から感謝いたします。
この作品は古代バビロニアの彩釉煉瓦大壁画に啓発されています。その特徴は、壁面に広がる緑の釉薬、陽光を浴びる人物の衣服文様、ブロック積みのように分割した陶板の目地などに表れています。海辺の人々、ヨット、花火など湘南の風物を陶のタペストリーのように表現しました。
陶という素材は日本の風土に合った優れた素材です。日本では茶碗や火鉢のように日常的な焼き物の中にも、豊かな世界を見ることができます。日本の伝統的な<焼き物=釉薬>の世界を積極的に取り入れ壁画作品として制作しました。
東京芸術大学美術学部長、建築家・工学博士
清家清
以前、日本交通文化協会から京都駅の駅舎の壁画のことで芸術大学へご相談があったとき、丁度芸大の客員教授として来ていらっしゃったルイ先生にお願いして陶板の壁画をこしらえていただいた。藤沢駅の改良工事に当ってもういちどこの陶板の壁画をこしらえて頂いた。
ルイ先生はステインドグラスの技術を教えに芸術大学へ来て頂いたのだが、同じ窯業材料の陶板壁画の制作が気に入って、日本の風土に合った優れた技法を開発された。さすがに文字通り巨匠と云ってよかろう。
ルイ先生の画業については別稿に譲るとして、このような建築と美術を結びつける計画は今後も続けてほしい企画である。できればすべての建築を美術で装うことを義務づけてほしい程だが、殺風景になり易い駅舎を美術品で飾って、道行く人の心をなごませるという発想はうれしい。
駅舎の壁画といえばペンシルバニアステイション(ニューヨーク)にあったジュール・ゲランの壁画を想い出す。15年程まえにこの駅舎は経済効率が悪くなったという理由で取りこわされてしまった。私を含めてどれ程か多くの人がこの駅を利用し、この絵に旅のつかれを癒やされたことだろう。
ルイ先生の壁画はこのゲランの壁画と比べて遜色がない。さらに保存さえよければ何万年もの耐久性があるハズである。しかし駅舎の寿命のほうが短いのではなかろうか。アメリカ中で最も立派だったペン・ステイションでさえ、60数年の寿命だった。
また、これもニューヨークの話だが、つい最近某銀行の彫刻が、落下すると危いという理由で取りこわされてしまった。ニューヨークというようなところは芸術とか文化については関心のない市民が多いところだ。しかし、藤沢駅のこの立派な壁画は藤沢市民と藤沢駅を改装して新生させた人々の努力で出来上がったものだから、このニューヨークの芸術品の末路のようなことはないだろう。
縁起でもないことを劈頭に申し上げて恐縮だが、美術品というものは、作者だけの力ではなくて、その美術品を支えてくださる一般の支持者の力が必要であって、その支持がなくなればこのニューヨークの事態と同じことが起り得るということである。そのような事のないことをこの絵の為に祈りたい。折角異国から来日してこの藤沢市民の為にこの傑作を制作してくださったルイ先生の為にも皆さまの愛情と芸術への理解を祈る。
藤沢市長
葉山峻
この度藤沢駅構内に、藤沢市のテーマである「緑と太陽と潮風のまち藤沢」に基づいた陶板レリーフが完成し、心からお祝い申しあげます。
藤沢市では、市民の皆さまに親しまれる街づくりをめざして10年来、藤沢駅前の再開発に取組んでまいりました。街の中心であり、通勤・通学の拠点である国鉄藤沢駅の橋上駅が完成したことにより、市民の交通の便がさらに改善されたことを大変うれしく思います。日々市民が利用する駅の構内に、藤沢市の歴史と風土を表現したすばらしい壁画が完成されたことは、市民にとって誇りとなるものでありましょう。法隆寺や高野山の壁画から藤沢市太陽の家の壁画にいたるまで、古来、芸術の中で、壁画はユニークな位置をしめていますが、ここに、ルイ・フランセン先生の手になる芸術の香り高い本作品が広く全国に知られ、藤沢市の観光PRのために大いに活躍してくれることを期待しています。
題名は一般募集される予定で、私も審査員として、本作品の風格にふさわしい力作が寄せられるよう、そしてその題名とともにこの公共芸術が末永く親しまれることを心から念じています。
陶板レリーフ
1983年 6月
藤沢市役所
「めでたき富士」 (222m)
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タイル ステンドグラス
1984年 3月
藤沢市立鵠沼小学校
「鵠の沼」 (1.3km)
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