TOP 1%フォー・アート
日本交通文化協会では「1%フォー・アート」の法制化を実現するため、
さまざまな取り組みを行っています。
これからの日本は文化芸術を軸に据えた国造りを進めるべきだと当協会は考えており、
その文化芸術の振興のため「1%」は大きな駆動力となると思っています。
すでに「1%フォー・アート」を採用している欧米などでは、
これが若いアーティストを育て、
またアートを軸にコミュニティーや経済の活性化に大きな力になっていると報告されています。
「1%フォー・アート」とは公共工事、もしくは公共建築(建物・橋梁・構造物、公園等)の費用の1%を、その建築に関連・付随する芸術・アートのために支出しようという考えです。ルーツは戦前の米国にさかのぼります。1930年代、米政府は大恐慌を乗り切るためニューディール政策を採用しました。その一環として、職を失って苦境にある芸術家にも公共建築費の約1%を割いて、建物や公園に飾る芸術作品を発注しました。これは1943年までの約10年間、続きました。
戦後、この「1%フォー・アート」は雇用対策ではなく、文化芸術振興策の一つとしてまず欧州で導入されていきます。米国、カナダなども続き、現在ではアジアでは韓国と台湾が法制化しています。
「1%フォー・アート」の資金は公共工事や公共建築に関連する構造物や空間を装飾するパブリックアートに割かれるもので、「1%フォー・アート」とパブリックアートは車の両輪です。その額は国や自治体によって1%以上から0.5%以下までまちまちですが、象徴的意味を込めて「1%フォー・アート」と呼ばれています。また美術装飾だけでなく、米国やフランスのように演劇、ダンス、音楽などのパフォーマンスも対象としている国もあります。
公益財団法人 日本交通文化協会 理事長
戦後、日本は長いこと経済第一主義、成長・効率優先でやってきました。しかし社会の成熟によって、モノとカネを大車輪で回していく大量消費は頭打ちとなり、人々の関心はゆとり、スローライフ、モノよりコトへとシフトしています。働き方改革、ワークライフバランス、イクメン、テレワークといった言葉が広く使われるようになっているのも、人々のライフスタイルの大きな変化を物語っています。
経済優先路線が行き詰っているのは地球規模の課題からも明らかです。待ったなしの地球温暖化対策、プラスチックゴミを含めた海洋汚染と、乱獲による漁業資源の枯渇、アマゾンなどの森林乱伐による種の激減……。挙げれば長いリストができるでしょう。一言でいうと、持続可能な社会をどう作っていくのかが問われています。
こうした内外の状況を踏まえた上で、新しい日本の将来ビジョンは文化芸術の振興に据えるべきだと考えています。名実共に文化国家といえる日本を築いていくことです。そしてその駆動力となるのが「1%フォー・アート」だと思います。
公共工事費、もしくは公共建築費の1%を、その建築物にかかわるアートに割くこの制度は、多くの若いアーティストに創作の機会を与え、その建築物の付加価値を向上させ、ひいては都市景観や地域の環境にプラス効果をもたらします。それはヒューマンな楽しい場の創出でもあり、コミュニティーの活性化や暮らしの質向上に繋がります。またアート関連産業への波及、観光客への誘因など、地域経済にも追い風になるはずです。当協会は公共工事費の1%を求めています。
また「1%フォー・アート」は公共建築物にアートを飾る、装飾するということにとどまるものではありません。例えば東日本大震災の復興予算で、その1%が文化芸術に割かれることを想像してみてください。
国内外の名立たるアーティストに「世界の平和」のテーマで1人1作品を造ってもらい、それを東北3県の被災した各地に設置していく。そうなれば世界から人々が訪れ、地図を片手に作品巡りをし、地域の風物に触れ、食文化を楽しみ、地元の人たちと交流する。また招かれた内外の音楽家や舞台芸術家は、演奏会や演劇などで地元の人々を勇気づけ、交流する。つまり作品を造って終わりではなく、文化芸術を触媒に大きな人の渦と流れが生まれ、地域を活性化させていく。「1%フォー・アート」はそうしたダイナミズムを生み出す力を持っていると思います。
本サイトの「インタビュー」欄で、彫刻家の五十嵐威暢先生(元多摩美術大学長)が、米国の「1%フォー・アート」について語られております。ロサンゼルス市は1994年のロサンゼルス地震で崩壊し、傷んだ橋梁の架け替え工事を行うことになり、その費用の1%をアートに割り当てると全国公募を行いました。米国に滞在していた五十嵐先生は橋の欄干にアーティスティックな装飾を凝らす企画を提案し、2つの橋梁で採用されました。このほか終末医療病院の内装なども「1%フォー・アート」に採用されました。この制度がいかに大きなインパクトを持っているか、体験を踏まえて指摘されています。
公共工事費も公共建築費も元をたどれば税金ですが、その一定額を文化芸術のために割くことに議論もあるでしょう。しかしこれは「文化芸術を国造りの中心に据える」「文化国家の建設に取り組む」との国の力強いメッセージの発出になると私は考えています。
「1%フォー・アート」の法制化にご理解とご協力をお願いしたいと思います。
日本交通文化協会の「1%フォー・アート」への取り組みは2000年にさかのぼります。この年の12月、公共工事費の約1%を文化芸術に振り向ける政策の実現などを求めた「パブリックアートの振興に関する提言」をまとめ、政府に提出しました。
この提言は、当協会が主導して設立した「パブリックアートに関する特別委員会」が6カ月間の議論をへてまとめたものです。メンバーは、清家清氏(建築家、東京藝大・東工大名誉教授)を委員長に、澄川喜一氏(彫刻家、東京藝大学長)、宮田亮平氏(金工家、東京藝大教授)、梅﨑壽氏(運輸省事務次官)、大塚陸毅氏(JR東社長)など、芸術界、官界、鉄道・運輸など各界で活躍されている方々20数人で構成。顧問には平山郁夫氏(画家)と住田正二氏(JR東相談役)が就かれました。
これからの日本の文化政策のあり方を示した提言には①「1%フォー・アート」の実現、②文化・芸術を専門に担当する文化担当大臣の設置、③文化芸術に対する税制上の優遇措置――などが盛り込まれました。提言書は森田一運輸大臣、佐々木正峰文化庁長官に手渡されたほか、経団連会長、全国の美術大学に提出されました。
また滝久雄理事長は文化庁などの審議会などに招かれた折には、積極的に「1%フォー・アート」法制化を訴え、2019年1月には、自民党の市場活性化小委員会(丸川珠代委員長)で、やはり「1%フォー・アート」法制化の必要性を話しました。
コロナ禍でアーティスト、芸術界は苦しい状況に置かれました。
当協会は5月、文化芸術の抜本的な振興のための提言をまとめ、滝理事長から政府幹部、政治関係者に手渡されました。
コロナ禍は世界各国で文化芸術に携わる人々をかつてない苦境に追い込んでいます。美術、音楽、舞台芸術、小劇場などの各分野で、人々は仕事の機会を奪われ、表現の場を失い、失業し、文化関連施設の維持に困難をきたしています。そうしたなか、先進国ではさまざまな緊急対策が打ち出されております。
日本では、文化庁が文化施設の再開支援や、先端技術を活用した鑑賞環境の改善、アートキャラバンなどの支援を発表し、自治体でも文化芸術に携わる団体への緊急支援や、アーティストへの応援事業、実演のネット配信などを打ち出しています。そうした緊急避難的な対策は必要でしょう。しかしこれらは予算も限られ、対象者も限定的で、危機を乗り越えるには不十分を言わざるを得ません。
そもそも日本は世界第3の経済規模に比して、文化予算は絶対額でも、国家予算比でも、先進国の中で極めて少ないのが現実です。2017年、日本の国家予算に占める文化予算の比率は0.11%で、英国(0.16%)、ドイツ(0.49%)、フランス(0.88%)、韓国(1.05%)と比べてその差は歴然です。また同じ年、国民1人当たりの文化予算額も日本の819円に対して、円換算で英国2824円、ドイツ2634円、フランス7568円、韓国5597円です(平成30年文化庁委託事業「諸外国における文化政策等の比較調査研究事業報告書」より)。今回のコロナ禍ではドイツのモニカ・グリュッタース文化相は「アーティストはいま、生命維持装置に必要不可欠な存在」とその重要さを指摘し、芸術や文化の領域を含む零細企業・自営業者に対して500億ユーロ(約6兆円)を拠出しました。
文化芸術は日本の数少ない成長産業である観光の重要な推進力であります。外国人が日本に興味をもったきっかけも日本食と並んで、アニメ、漫画、ゲーム、音楽、伝統文化など、文化に絡むものが上位にあります。また訪日外国人の観光客のうち29.3%が美術館・博物館を訪問しています(2018年の観光庁調査)。一昨年、昨年と、訪日外国人は3000万人を上回りましたが、これは2018年の改正文化芸術基本法によって、「文化の保存」から「文化の活用」へ舵を切り、文化芸術が積極的に公開され、観光に活用されるようになったこととも無縁ではありません。
また文化芸術が人々の暮らしの上で果たす役割も見落とすことができません。少子高齢化の日本にあって、人々はややもすると内向きになり、孤立し、周囲と絆を失いがちになります。しかし文化芸術は人々に喜びと感動を与え、それは癒し(ヒーリング)ともなります。また人々を結びつけ、コミュニティに求心力を与え、世代を超えた繋がりを築きます。さらに多様性をはぐくみ、教育にも大きな効果を生み出します。
コロナ後を見据え、新しい生活スタイルが求められているいま、文化芸術振興のため抜本的な政策を打ち出す時期にあるのではないでしょうか。
私たちはこの危機を文化政策転換のためのスプリングボード、つまりチャンスと捉え直し、緊急避難的な対策は対策として、いまこそ文化芸術振興のために抜本的な政策を国として打ち出すべきだと考えます。当協会は70年以上にわたって、微力ながら文化芸術振興にかかわってきましたが、その経験も踏まえて「1%フォー・アート」の法制化を提案したいと思います。
今日、欧米では「1%フォー・アート」が文化芸術振興の大きな駆動力となっております。公共建築費の1%(国によって1%~0.5%など幅があります)を文化芸術に割くこの制度のルーツは、1929年の世界恐慌のときのアメリカにあります。
米連邦政府は未曽有の大不況の下、ニューディール政策の一環として、失業している芸術家に公共建築や公園などに飾るパブリックアートの制作を依頼しました。これは結果として芸術家の支援にとどまらず、広く人々に芸術鑑賞の機会を提供し、アメリカ文化のアイデンティティ作りに寄与し、文化政策として稀に見る成功を収めたと後に言われるようになります。これが公共建築費のおよそ1%を、その建築物のためのアートに割く「1%フォー・アート」の先駆けとなり、戦後の1950年代からフランスをはじめとする欧州、そして米国で、この制度が取り入れられていきます。そこではもはや失業対策ではなく、文化芸術振興のエンジンとして、文化芸術が国の一大産業となる上で大きな役割を果たしました。
なぜ「1%フォー・アート」が文化芸術振興のエンジンとなったかといいますと、これによって生み出される芸術家の仕事量は、美術館の買い上げや、画廊が美術愛好家に作品を販売するのとはまったく異なる次元で、そこから数多くのアーティストたちがチャンスを得て育っていきました。米国では音楽やパフォーマンスも広く「1%フォー・アート」の対象となっており、公立施設のオープニングでは音楽会やバレー、パフォーマンスが演じられます。こうしたことを通して人々の文化芸術に対する関心が醸成され、アート市場が拡大し、好循環が生み出されていきました。文化芸術振興への波及効果は絶大なものがあります。
公共建築費の「1%」にあたる公的資金を文化芸術のために使うことに議論がありましょう。しかし公的資金を使うことは「文化芸術をコロナ後の国造りの軸に据える」「真の文化芸術国家の建設に取り組む」との国の明確な意思表示となり、力強いメッセージの発出になると確信しております。これは日本においては個人の営みとして捉える傾向の強かった文化芸術を、より広がりのある公共性との兼ね合いで捉え直すことにも繋がります。
90年前の大恐慌の危機に際して、米国は革新的な文化政策を打ち出すことで、文化芸術の世界に新たな地平を切り開きました。日本もコロナ禍を従来の文化政策を大転換させるチャンスとすべきと思います。改めて「1%フォー・アート」の法制化を要望いたします。
公益財団法人 日本交通文化協会
理事長 滝 久雄
(この提言は2020年5月末に政府幹部、政府関係者に手渡されました)
日本交通文化協会は1972年に東京駅に第一号となるステンドグラス『天地創造』を設置して以来50年にわたり、全国にパブリックアートを広げてきました。半世紀という節目を迎えたことを記念し、11月30日、東京会館でパブリックアート普及振興50周年記念シンポジウム「パブリックアートと『1%フォー・アート』-文化による日本創造にむけて」を開催。鉄道をはじめとする企業経営者や研究者、美術関係者ら約100人が出席し、アートを巡るパネリストの議論に耳を傾けました。
冒頭、滝理事長より「私がパブリックアート普及に取り組んできたのは、身近にアートのある、潤いに満ちた都市や街や地域を作りたいとの思いからです。特に駅や公共施設など人が行き交う場所を居心地のいい、アーティスティックな空間にすることで、人々が知らず知らずのうちにアートに親しみ、アートに興味をもってもらう契機になるのではないか。パブリックアートの普及という私なりのやり方で、日本を文化芸術に親しむ社会にしていきたいと考え、実践してきました。日本は世界に誇る伝統文化と芸術を持ちながら、政府は国造りの中に文化芸術を正当に位置づけておりません。いま日本のさまざまな分野で行き詰まりと閉塞感が言われていますが、これは経済成長路線と無縁ではなく、その打開のためにも文化芸術の価値を取り入れた国造りに舵を切るべきだと思っております。」とあいさつしました。
まず東京都美術館館長の高橋明也氏は基調講演で、パブリックアートの歴史を石器時代にまで遡って紹介。パブリックアートへの関心を高めるには作品決定までのプロセス開示が大切だと指摘しました。続いて、元参議院議員で桜美林大学客員教授の二之湯武史氏が「いかにアートを社会に実装していくか?」と題したプレゼンテーションを行いました。アートは価値創造力を生み出す源泉であり、パブリックアートおよび1%フォー・アートは必須のインフラであると訴えました。アートの社会実装に向けた実践例として、「感性」を中心とした発想の活用や、新たなものが生まれやすい環境整備をすることでイノベーションを創発し、高収益を実現する“クリエイティブ経営”を提案されました。
その後、建築家の隈研吾氏、多摩美術大学教授の湯澤幸子氏が加わり、毎日新聞大阪本社の学芸部長・岸桂子氏をモデレーターに、パネルディスカッションを行いました。隈氏は自身のフランスでの体験から、都市における最も有効なコミュニケーションメディアはアートであり、都市の価値をあげるためにアートがあると提唱。一方、湯澤氏はアートは人を結びつけることの重要さを指摘しました。美術館館長、建築家、元政治家、美大教授とそれぞれの専門分野の活かした議論となり、多様な視点が多くの考えるヒントや気づきをもたらし、興味深く聴けたとの声を参加者から多くいただきました。
五十嵐 威暢
彫刻家・多摩美術大学 元学長
隈 研吾
国立大学法人東京大学 特別教授
野依 良治
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター長
松浦 晃一郎
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)第8代事務局長
室伏 きみ子
国立大学法人お茶の水女子大学 名誉教授
(五十音順)
あ行
相澤 益男 | 東京工業大学 元学長・名誉教授 |
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合原 一幸 | 東京大学 特別教授 |
麻生 秀穂 | 壁画家 |
五十嵐 威暢 | 彫刻家 |
井茂 圭洞 | 書家、日本芸術員会員 |
石田 義雄 | 東日本旅客鉄道株式会社 元監査役 |
石原 進 | 九州旅客鉄道株式会社 元相談役 |
石渡 恒夫 | 京浜急行電鉄株式会社 代表取締役会長 |
伊藤 隆道 | 造形家 |
ブライアン・ウィリアムズ | 洋画家 |
梅﨑 壽 | 東京地下鉄株式会社 顧問 |
大須賀 賴彦 | 小田急電鉄株式会社 特別社友 |
大津 英敏 | 洋画家、日本芸術院会員 |
大友 克洋 | 漫画家、映画監督 |
大成 浩 | 彫刻家、日本美術家連盟 理事 |
大矢 紀 | 日本画家 |
小倉 健一 | 日本画家・故小倉遊亀氏 孫 |
か行
加藤 暁子 | 公益財団法人AFS日本協会 理事長 日本の次世代リーダー養成塾 専務理事 |
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加藤 尚武 | 哲学者、京都大学 名誉教授 |
川勝 平太 | 静岡県知事 |
川﨑 麻児 | 日本画家 |
川﨑 鈴彦 | 日本画家 |
草間 喆雄 | 染織家 |
工藤 晴也 | 東京藝術大学 教授 |
久保 征一郎 | 株式会社ぐるなび 元代表取締役社長 |
隈 研吾 | 建築家、東京大学 教授 |
倉島 重友 | 日本画家 |
黒田 信二郎 | 特定非営利活動法人文字文化協会 理事 |
さ行
佐野 ぬい | 洋画家、女子美術大学 元学長 |
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清水 仁 | 東京急行電鉄株式会社 特別顧問 |
鈴木 竹柏(故人) | 日本画家 |
澄川 喜一 | 彫刻家、日本芸術院会員 |
た行
高木 聖雨 | 書家、日本芸術院会員 |
---|---|
高津 明美 | 染色工芸家 |
高橋 千笑 | 漆芸家 |
竹村 牧男 | 東洋大学 元学長 |
舘 逸志 | 地域活性化伝道師 |
ベルナール・デルマス | ミシュラングループ シニアアドバイザー |
冨田 洋 | ジオ・サーチ株式会社 代表取締役社長 |
鳥居 ユキ | 服飾デザイナー |
な行
中島 千波 | 日本画家、東京藝術大学名誉教授 日本美術家連盟 常任理事 |
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西川 知雄 | 西川シドリーオースティン法律事務所 元代表代表 城西国際大学特別栄誉教授 |
根津 嘉澄 | 東武鉄道株式会社 代表取締役社長 |
野見山 暁治 | 洋画家、東京藝術大学 名誉教授 |
野依 良治 | 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター長 |
は行
長谷部 健 | 渋谷区長 |
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林 成之 | 日本大学 名誉教授 |
原田 一之 | 京浜急行電鉄株式会社 代表取締役社長 |
平澤 公裕 | 株式会社芙蓉書房出版 代表取締役社長 |
平松 礼二 | 日本画家 |
福井 爽人 | 日本画家 |
堀 文子(故人) | 日本画家 |
ま行
松浦 晃一郎 | 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ) 元事務局長 |
---|---|
松崎 良太 | 日本画家 |
松平 盟子 | 歌人 |
水戸岡 鋭治 | インダストリアルデザイナー |
三宅 美博 | 東京工業大学情報理工学院 教授 |
室瀬 和美 | 漆芸家 |
室伏 きみ子 | お茶の水女子大学 名誉教授 |
森 英恵 | 服飾デザイナー |
森山 知己 | 日本画家 |
や行
矢田部 厚彦 | 元外交官 |
---|---|
山折 哲雄 | 宗教学者 |
山本 貞 | 洋画家 |
芳澤 一夫 | 日本画家 |
吉武 研司 | 洋画家 |
2021年3月末現在、66名の皆様にご賛同いただいております。(五十音順 敬称略)
この欄では幾つかの国の「1%フォー・アート」の取り組みを紹介します。
「1%フォー・アート」のルーツは、戦前のアメリカのニューディール政策にあります(アメリカではPercent for Art と言います)。1929年に始まった世界大恐慌を乗り切るため、ルーズベルト大統領は公共投資を増やし需要を喚起するニューディール政策を発動します。その一環として仕事を失ったアーティストにも仕事を創出するため、公園や公共施設などを飾るアートを注文しました。
1933年に実験的なプログラムとしてスタートしたこの政策は、翌年、装いを変えて公共建築物の建設費の1%を美術作品の購入に充てることになりました。このために作品を製作するアーティストを公募して選ぶという一連のプロセスが決まり、今日の「1%フォー・アート」の先駆けとなりました。このプログラムが終了するまでの10年間に、6000人のアーティストを含む850万人以上の雇用を生み出したといわれます。その間に製作されたアートは絵画、彫刻、壁画など約12万点に上り、現在も全米の連邦関連の建物を飾っています。
このプログラムは結果としてアーティストを救済しただけでなく、人々にアートに接する機会を増やし、同時にヨーロッパの文化芸術に劣等感のあったアメリカに、アメリカ文化への覚醒と、またそれを確立する大きな土台を提供したといわれています。第二次大戦の勃発と、文化芸術への関心の低下で、1943年にプログラムは終了しました。
アメリカで「1%フォー・アート」プログラムが再登場するのは1950年代末になってからです。ただ戦前の失業対策と違い、戦後は文化振興という観点からのものでした。
まず1959年にフィラデルフィア市で採用されたのを皮切りに、バルチモア市(1964年)、サンフランシスコ市・ハワイ州(1967年)、シアトル市(1973年)、ワシントン州(1974年)、アラスカ州・オレゴン州(1975年)と、全米の州のほか各市など基礎自治体で導入されていきました。現在、採用している基礎自治体は350を超えるといわれます。連邦レベルでは米国共通役務庁(GSA)が1972年、連邦政府の建物の建設費用の0.5%をパブリックアートの購入に充てる政策を開始します。
全米50州の州政府レベル(2018年現在)で見ますと、「1%フォー・アート」を導入しているのは27州(オレゴン、ワシントン、フロリダ等)、導入していたが停止した州は5州(テキサス、ミネソタ、ミシガン等)です。残り18州は採用していません。「1%フォー・アート」を導入している州で、1%を割くのが義務付けられているのは23州、推奨は5州です。
またパブリックアートに充てる額の割合は州によって0.25%から1.25%まで幅がありますが、一般的に1%です。また対象を美術作品と限定しておらず、身体表現やモダンダンスなどパフォーマンスも含めており、建築物のコケラ落しの時に、こうしたパフォーマンスが演じられることもあります。
公共空間にアートを飾るパブリックアートがアメリカで登場し始めるのは1950年代からですが、1960年代になってその役割に新たな光が当てられるようになります。文化としてだけでなく、都市政策の触媒としての役割です。暴動や貧富の格差拡大による都市のスラム化や環境の悪化の中で、都市再開発と都市景観の改善のためにパブリックアートが注目されたのです。パブリックアートがあると公共心を高め、落書きや破壊行為が減るとの報告もありました。1960年代になって自治体が「1%フォー・アート」を積極的に導入しはじめたのにはこうした背景もあったと見られます。
「1%フォー・アート」プログラムに対する批判がないわけではありません。一つはパブリックアート作品そのものに対する批判です。抽象的、挑発的であればあるほど、これに対する批判は起こります。二つ目は、文化に公金を注ぐことへの批判です。とくに財政難の州や自治体では「財政が苦しい時になぜアートにおカネを出すのか」との市民からの批判もあります。州知事や州議員が財政難を理由に停止しようとして、議会の反対で停止に至らなかった州もあります。
州政府のパブリックアート振興を図っている非営利団体の「州政府アート全国評議会」(NASAA)はパブリックアート推進の論拠を挙げています。その幾つかが次です。
いろいろな議論があるアメリカですが、「1%フォー・アート」はアート産業の中にしっかりと組み込まれており、これがアメリカの文化力のダイナミズムを生み出していることは事実なのです。
フランスでは「1%フォー・アート」を「芸術のための1%」(un pour cent artistique)と呼びます。戦前の1936年、法制化の動きがありましたが、実現されないままに終わりました。しかしこのアイデアは生き続け、戦後の1951年、教育省が導入し、学校など教育関連施設の建設に際して建設費の1%をパブリックアートに充てることを義務付けました。生徒・学生に文化芸術に親しませ、アート教育に活用しようとの狙いがありました。その後、財務省、外務省など各省が採用し、これと並行する形で地方自治体も取り入れていきました。政府では最後まで残った内務省と国防省が2002年に導入しました。
フランスがこの制度を導入した背景には、同国の文化政策に対する独特の考え方もあったと思われます。王制が絶頂をきわめた17世紀、国王ルイ14世は学問・諸芸術・文芸の保護者として自らを打ち出し、この姿勢はその後の同国の文化政策の基本的な考え方となっていきます。文化とは国が率先して国民に提供すべき公共サービスであるとの考えです。
1959年に設立された文化省の初代文化大臣のアンドレ・マルローは1969年までポストにありましたが、「国家予算の1%を文化政策に充てる」との目標を掲げます。1981 年に誕生したミッテラン社会党政権は文化振興に拍車をかけ、約10年間文化相を務めることになるラング氏の下で文化予算は国家予算の1%を達成しました。
同文化相は文化の概念を既存の美術や音楽の枠内にとどめず、映画、ファッション、グラフィック、料理などの分野にも拡大。さらに文化教育を充実させるなど、市民に文化を浸透させていきます。これに「1%フォー・アート」が寄与したことは間違いないでしょう。
「1%フォー・アート」の政策を統括する文化省は、その意味についてこう述べます。「文化創造を支え、同時代の芸術を自分たちに身近なものにしたいという国民の表明と共に、公共建築物への装飾を義務付けることから成る1%フォー・アートは、国や地方公共団体の責務としてアーティストに作品を発注する一連のプロセスでもあります」(文化省ホームページ)。ここにも芸術家の仕事を創出すると同時に、人々の文化的欲求を満たす責務を国や自治体が負っていることが示されています。
同省によると、1951年から2019年までざっと1万2400件以上のパブリックアートが創作・設置され、かかわったアーティストは4000人を超えます。文化省ホームページの「1%フォー・アート」サイトを見ると、地方と海外別に公募情報が掲載されています。ア-ティストや建築家はこうした情報を検索しながら応募することになります。例えば海外では、外務省が在外公館の改修に際して、その装飾のための企画を公募しています。
「1%フォー・アート」は文化遺産再生にも力を発揮しています。例えば南仏トゥールーズにある17世紀の「サン・ジョン」という館は歴史文化遺産に指定されていますが、文化省がこれを購入し、大改修を行いました。その費用の1%相当額がアートに割かれ、審査で選ばれた3人のアーティストが内装を行い、館は素晴らしい現代アートでよみがえりました。現在、この館は文化省の出先機関の事務所とともに、市民に開放されています。
なお「1%フォー・アート」に割かれる額の上限は200 万ユーロ(約2億4000万円)です。また1%相当額が3万ユーロ(約360万円)未満の場合、施行主は存命する作家の既存作品を選ぶことができますが、1%相当額が3万ユーロ以上の場合は、必ず新作を発注しなければなりません。
フレデリック・ミッテラン文化相は2011年、「1%フォー・アート」60周年に講演し、この制度の意義として4点を挙げています。
ここで言う「文化の民主化」とは、文化とは高級なものでなく、大衆的・日常的なものを含む幅広い概念であり、これを広く市民が享受できるようになったといいます。
フランスは2014年から毎年、「1%フォー・アートの日」を設けており、小中学校、高校、大学、高等教育機関がこぞって参加します。教育施設を映像や自分たちの作品で飾り、市民に公開して生徒・学生がガイドを務めます。教育省が最初に導入したように、フランスでは「1%フォー・アート」は教育と密接に繋がっており、日常の環境の中にあるアートを改めて見直す機会とし、1%フォー・アートの大切さを考える日にしています。
1947年制定のイタリア憲法は第9条で、「国は文化の発展と科学技術研究を推進する。国家の景観と、歴史・芸術的財産を保護する」と規定されており、1949年に「1%フォー・アート」にあたる通称「2%法」で、公共建築物内の芸術作品に建築予算の2%を充てると法律で決められました。これは公共建築物の美観と共に、芸術家の育成と創作機会の付与を目的とし、州、県、市町村の基礎自治体にも適応されました。
この一律2%は2012年の改正で、100 万ユーロ以上 500 万ユーロ未満は2%、 500 万ユーロ以上 2000 万ユーロ未満は1%、 2,000 万ユーロ以上は0.5%となりました。また学校、大学、医療施設は例外にされています。アート作家の選定については、公共建築物を建てる行政当局の代表、建築の計画者、美術・歴史財を監督する担当官、2人の芸術家(行政当局の任命)で構成される委員会で審査・選考されます。
ただイタリアではアート作家の選定過程の不透明さや、一定割合をパブリックアートに充てる規則が有名無実化していることに度々批判が起きています。縁故や癒着での作家選定、汚職、また自治体の財政難などが背景にあるとみられています。イタリア中部から北部の比較的豊かな州や自治体では「1%フォー・アート」が守られているものの、中部以南の自治体では有名無実化しているともいわれます。2%法を適用している北部エミリア=ロマーニャ州(州都ボローニャ)では2010年代半ばまでに 158 の公共施設に355の品が購入・製作されたといわれます。
ヨーロッパで「1%フォー・アート」の歴史が最も古いのがスウェーデンです。1937年、「文化政策イニシアチブ」が国会決議され、世界大恐慌で大きな打撃を被ったアーティストに働く場を提供しようとの目的で「1%フォー・アート」(スウェーデンでは1%ルール」)がスタートしました。この実施を担ったのが国立パブリックアート評議会でした。しかし公共建築物の建設費の1%を芸術に必ず充てるという政策に、「硬直的すぎる」「1%未満でもいいではないか」との批判が起こりました。1%の半額を国が支援し、残り半額を建設主が負担するなど紆余曲折を経て、戦後の1947 年からはパブリックアート設置は国が建設費とは別に手当することになりました。
現在、県や基礎自治体が「1%フォー・アート」を採用するかどうかは任意で、また導入されても推奨にとどまっています。ただ採用する自治体は少なくなく、ある自治体は0.5%ですが、首都ストックホルムのように2%としているところもあります。柔軟な適用がスウェーデンの特徴です。ただ環境意識の高い北欧らしく、アートを使っての都市再開発は盛んで、1997年には公共建築物だけでなく公共空間や公共広場も装飾の対象となり、国立パブリックアート評議会が助成しています。
フィンランドは「1%フォー・アート」(フィンラドではPercent of Art Principle と称します)への理解を深めるため、ハンドブックを定期的に発行しています。これによると70%の国民は「住まい、学校、図書館、仕事場で(パブリック)アートを目にしたい」と答え、90%が「アートは前向きの気持ちにさせてくれる」と感じていて、79%が「アートは自分たちの環境を良くし、安全にしてくれる」と考えています。また「建設費の1%が美的に装飾に使われた建物に住めるなら、より高い家賃を払う用意がある」と答えた人が44%いました。
フィンランドで「1%フォー・アート」が導入されたのは1960年代末です。「Principle」(原則)という言葉に示されているように、法律で規定されている訳でなく、運用は柔軟です。首都ヘルシンキのほかウルなどの大きな都市は1%を適用していますが、中小の自治体では託児所、学校、病院などの建築に「1%フォー・アート」を適用するかどうかはケースバイケースで決めています。またアートに割く割合も1%を境に幅があり、その時々で決めています。
しかし「アートは環境にさまざまなプラス効果を与える」(ハンドブック)との認識は人々に強く、近年、「1%フォー・アート」をよりダイナミックに活用していこうとの動きに繋がっています。教育文化省の傘下にある文化振興センター(APC)は、自治体が「1%フォー・アート」を適用する際は、アートに割く一定額の一部を補填する仕組みを2014年に導入。これによってそれまで自己財政でやっていて、公共建築物によっては「1%フォー・アート」適用を躊躇していた自治体が、積極的に取り組むようになりました。2019年までの6年間にAPCから資金提供を受けた自治体は73に上ります。
さらに「1%フォー・アート」の運用に大きなインパクトを与えたのが、2000年にスタートしたヘルシンキ市内の住宅地アラビアンランタ地区の再開発事業でした。市はこの事業に参加する民間デベロッパーに建築費の1~2%をアートに充てるように指導。再開発は2015年に終わりましたが、建物の装飾や公園、広場などに300に上るパブリックアートが製作、設置されました。
これ以降、各地の再開発事業はアラビアンランタ地区をモデルに進められるようになりました。大きな都市では市内を地域ごとにゾーニングし、特定の地域では民間デベロッパーも「1%フォー・アート」への参加が義務付けられるようになっています。
アイルランドでは当初、省庁ごとに「1%フォー・アート」の枠組みがつくられました。1978年に公共事業庁が「1%フォー・アート」をベースにしたモデルを採用し、1986年には環境省が「芸術的装飾」と称する枠組みを作りました。1994年にはこの二つを合わせた「パブリックアート研究プロジェクト」という報告書が専門家集団から政府に提出され、これを土台にして1997年、政府は「1%フォー・アート」導入を決めました。これは法律に基づくものではなくガイドライン(指導基準)となっています。
適用対象となるのは公共建築物、輸送機関と道路、環境にかかわる排水・ポンプ・貯水池、都市再生事業などです。なおアートに充てられる予算は建築費の規模によって変わってきます。2019年に改訂され、以下のように決められました。
韓国は1972年に国と地方自治体レベルで文化芸術振興法を施行し、建築費の1%を推奨事項として規定しました。これは欧米の「1%フォー・アート」を下敷きにしたもので、1982年に同法に「建築物美術装飾制度」条項が加わりました(現在は「建築物の美術作品制度」)。ただ韓国の場合は対象を公共建築物よりも、民間建築物を中心としていたのが欧米と異なります。国の主導で民間の建築物に美術品を設置させ、人々にアートに触れる機会を増やしていこうというものでした。
1980年代になるとアジア大会(1986年)、ソウル五輪(1988年)に向けて、都市景観の美化と文化芸術振興の必要性への認識が高まり、ソウル特別市は国に先駆けて1984年に建築物への美術装飾を義務化しました。国レベルでは1995年に文化芸術振興法を改正し、建築物への美術作品設置を義務付けしました。
対象となるのは延べ面積1万平方メートル以上の建築物では、建築主は建築費用の1%に相当するアート作品の設置に充てることとなりました(その後、「1%以下」に)。さらに2011年に法律が改正され、建築主はアート作品を設置するか、もしくは設置費用の0.7%に相当する額を「文化芸術振興基金」(文化芸術全般の振興支援を目的とする基金)に拠出する、いずれかが選べるようになりました。なおこの「文化芸術振興基金」はこの民間の拠出金のほか、政府拠出、寄付金などから成っており、広く文化芸術活動に支出され、昨今の韓国のポップアートなどの隆盛も支えています。
「1%フォー・アート」の義務化は市民が芸術作品に触れる機会を増やし、アート作家に創作機会を提供しました。しかし一方で作家選定の不公平、建築主と作家の癒着、建築主の文化に対する認識不足など批判が高まりました。またこの制度が民間の経済活動を妨げているとの不満も高まりました。こうしたなかで2006年、政府は公共事業としてパブリックアートを全国に広げる「Art in City」を立ち上げました。
さまざまな議論を経ながらも、パブリックアートや公共空間のデザインに対する理解の深まりは都市景観の改善や芸術の大衆化に寄与し、観光客の誘致やアート作家の創作機会を創出してきました。韓国政府の文化体育観光省は 2006 年から「村美術プロジェクト」をスタートさせました。作家の雇用創出、地域を文化芸術空間の再創造、地域住民の芸術享受機会を増やし、アートを通した地域経済の活性化が目的でした。
なお「1%フォー・アート」に基づくパブリックアート設置件数でいえば、2010年代半ばで年間約 600~1,000 件で推移しており、関連市場規模は年間約 700 億~1,000 億ウォン規模といわれます。
台湾もパブリックアートの振興に大きな力を入れており、全国に数多くのパブリックアートが設置されています。首都台北では地下鉄の駅や地下通路、超高層ビル台北101の周辺一帯、さらに広場、公園と目に付きます。それも通り一遍のものはなく、面白く、見ていても飽きません。いまやパブリックアート巡りは、台湾観光の目玉にもなっています。また文化部(文化省)のホームページの「TAIWAN Public Art 公共芸術」では、台湾全土のパブリックアートがグーグルマップと紐づけされており、作品を見ることができます。
台湾でパブリックアート振興の力になっているのが「1%フォー・アート」です。1992年に文化芸術奨励法が制定され、その中で「公共建築物の所有者は、建築物及び周辺環境の美化のために芸術作品を設置するものとする。当該芸術作品の価額は当該建築物の工事費の1%を下回ってはならない。」(9条抜粋)と定めらました。ただし巨額の建設事業、例えば新幹線の駅舎などの場合は、パブリックアート設置は義務付けられるものの、その拠出割合は1%でなくてもいいとなっています。
また9条では、民間人が自分の建物を公共の用途(コンサートホールや劇場や展示ホール、集会場など)に供し、そこにアートを設置した場合、「当該芸術作品の費用が建築物の工事費の1%を超える場合、政府は、金銭的報酬を与える」と規定しています。1%を超えた分を国が補填するというものです。
台湾はこのパブリック振興をより実効あるものにするため1998年、パブリックアート設置法を採択しました。同法はパブリックア-トに関連する事項を決めていますが、その中で注目されるのは行政府と自治体レベルでパブリックアート評議委員会(PAWC)の設置を義務付けたことです。
PAWCはパブリックアート推進のエンジンとでもいうべきもので、地方自治体の場合はその自治体幹部のほか、建築家、アーティスト、都市デザイナーなど13人~17人で構成され、自治体のパブリックアート政策を取り決めます。また公共建築物が建設される際は、PAWCは「パブリックアート選考委員会」を立ち上げ、アート製作への公募を行い、審査・決定も行います。この選考委員会は自治体担当者のほか、当該建築物の設計者、アーティスト、環境デザイナーなど、毎回異なるメンバーで構成され、審査に癒着や恣意的な選考を排除する仕組みが工夫されています。
台湾行政府は毎年、全土のパブリックアート概況を「パブリックアート白書」で発表しています。2017年版白書によると、1年間に全土で設置されたパブリックアートは100カ所474作品で、「1%フォー・アート」で割り当てられた製作予算は6億8000万台湾ドル(約17億6000万円)でした。額としては前年(2016年)をやや上回りました。
また毎年末には「パブリックアート賞」の選考が行われ、その年に設置されたパブリックアートの中から秀逸な作品を選んで表彰しています。2018年12月に行われた「パブリックアート賞」では243作品がエントリーし、7分野から17作品が「周辺環境にマッチしたアート」として選ばれました。このほか学校でも「環境とアート」という視点からパブリックアートを考える授業が取り入れられています。さらに、台湾文化部は2年に1度の「パブリックアート・ビエンナーレ」を開き、期間内に設置されたアートの中から、卓越賞、芸術創作賞、環境融合賞、教育推進賞などの賞を授与し、取り組みを後押ししています。
この30年近くの取り組みについて文化部は「パブリックアート白書」(2019年)で「当初は『公共空間のアート』にとどまっていたパブリックアートが、いまでは自然・希少動物保護やエコロジーや教育などと結びついて効果を上げており、地域振興地域振興の大きな推進力となっている」と指摘しています。
文化部はホームページに、台湾全土の公共建築物の建設に絡むパブリックアート設置計画の一覧を載せており、アーティストはこれを見て応募することになります。外国人アーティストが海外から応募するのも自由で、台湾のパブリックアート政策の大きな特徴です。
台湾の民進党政権は「台湾は多文化国家であり、漢文化はその一要素にすぎない」と位置付けており、外国人アーティストの採用もこれと関係しているかも知れません。元多摩美大学長の五十嵐威暢氏も台北の副都心にある政府合同庁舎に飾るパブリックアートに応募し、選ばれました。いまも同氏の彫刻が合同庁舎の玄関ホールを飾っています。
*この世界の取り組みでは以下の資料等を参照しました
『パブリックアート政策 芸術の公共性とアメリカ文化政策の変遷』(工藤安代、勁草書房)
平成 25 年度 文化庁委託調査『文化政策に充当する財源に関する調査研究』報告書
平成 26 年 3 月 31 日 WIP ジャパン株式会社
The Handbook of the Percent for Art Principle in Finland 2015
PUBLIC ART: Percent for Art Scheme General National Guidelines-2004; Ireland
各国の文化省などのホームページ、「1%フォー・アート」に関連するサイト
当協会の展覧会事業で、日本の交通・観光文化の発展と振興を目的に開催される「交通総合文化展」。2021年10月に開催した「交通総合文化展2021」の会場では「1%フォー・アート」法制化に向けた当協会の取り組みや、すでに法制化している台湾のパブリックアートの様子を紹介いたしました。来場者アンケートで「1%フォー・アート」について聞き取りをしたところ、法制化に積極的な意見や芸術・文化を大事にしていくべきとの意見が数多く寄せられました。また、今回の展示で初めて知ったという方も多く、「1%フォー・アート」を認知していただくきっかけともなりました。
賛同意見
課題点の指摘
興味関心
2022年11月に開催したパブリックアート普及振興50周年記念シンポジウムでは、文化芸術に対する理解や議論を深める機会となりました。参加者約100名のうち半数の方からアンケートにご回答いただきました。それによると1%フォー・アートの法制化について「賛成」と「やや賛成」をあわせて94%の方が法制化を支持されました。
法制化に関するコメント
五十嵐 威暢
いがらし たけのぶ
彫刻家/多摩美術大学元学長