国際瀧冨士美術賞 第37期受賞者
小見 拓 KOMI Taku

国際瀧冨士美術賞 第37期受賞者:小見 拓

国際瀧冨士美術賞 第37期受賞者
小見 拓 KOMI Taku

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インタビュー

彫刻作家の小見拓さんは、国際瀧冨士美術賞の第37期(2016年)受賞者で、主に石の作品を手掛けてきました。招待作家に迎えられた「交通総合文化展2022」では初めてステンドグラスを使った制作にチャレンジし、新境地を開いています。クレアーレ熱海ゆがわら工房(静岡県熱海市)で出品作の仕上げに取り組む小見さんに話を聞きました。(聞き手・永田晶子、取材日・2022年9月)

ステンドグラスの平面性に魅せられて

小見拓さん
小見拓さん、クレアーレ熱海ゆがわら工房にて

——小見さんは今年10月に上野駅で開催される「交通総合文化展2022*¹」の招待作家として7月から9月までの3カ月間、初めてステンドグラスを使った作品の制作に取り組みました。通常ステンドグラスは平面の作品が多いと思いますが、小見さんは石彫を中心に立体作品を手がけています。戸惑いはありませんでしたか?

 戸惑いはあまりありませんでした。僕は石彫作品のほか、「変形態」というテーマで形を変えたり、動かしたりできる構造体も制作しています。こちらはアクリル板からパーツを切り出して金属部品も使って組み立て、立体にする作品です。今年3月、最初に「クレアーレ熱海ゆがわら工房」でレクチャーを受けた時に、ステンドグラスを使った林檎型などのオブジェを見せていただきました。「こんな立体的な使い方もできるんだ」と気づき、自作の「変形態」シリーズの手法を応用した作品が作れそうだと思いました。自分が使ってきたアクリルは透明性や硬度がある素材という点で、意外とガラスに近いようにも感じました。

変形態-円柱
『変形態-円柱』2015年、アクリル板・ABS樹脂・ネジ・ナット、可変(円柱:145×80×80mm)
工房でのレクチャー
クレアーレ熱海ゆがわら工房のアートディレクター中野竜志氏によるレクチャー
ガラスの色の確認
工房でのガラス選び

——交通総合文化展に出品する「変形態_平面」は、5色のガラスをはめ込んだ12個のパネルをアームごと壁に設置する作品です。面がそろった状態では長方形ですが、各アームを展開してガラス面の位置をずらし、さまざまに形態を変えて固定することができます。可動性があるステンドグラスの作品はあまり記憶にありません。どのように制作を進めたのでしょうか。

 組み立てる作品の場合、僕はCAD*²を設計に使います。最初に完成形は決めずに、単純な立体形を念頭に置いてパソコン上で面を分割したり、動かしたりしながら最終的な形と構造を決めていきます。7月初めまでに作品プランを決め、動かせる形にデザインした金属製アームは外注してレーザーカッターで切り出してもらいました。
 7月にはガラスの色選びのため工房に再び行きました。これまで作品に色彩を使った経験があまりなく、アンティークグラスの見本を見せていただくとあまりにたくさんの色数があって驚きました。正直迷ったのですが、あらかじめ青系統でやろうと決めていたので、濃淡や緑に近い青、淡いグレーなど5色を選びました。なぜ複数の色を使ったかといえば、例えば青空を撮影した写真を拡大すると、一面同じ色のようでも実は様々な色彩のドットが集まって青色を形成しています。そうしたイメージを、部分的に作品で再現できればと考えました。
 まず、ガラス1個面のユニットを作って自宅の壁に設置し、外れないか落下の危険はないかといった実験を行いました。全てのアームが出来上がってからは、金属の表面や断面を研磨しつつ、パソコンで展示のシミュレーションを行いました。12個のユニット全部を完成形に近い形で壁面に設置したのは今日が初めてです。少しドキドキしていたのですが、うまくいって安心しました。

——作品プランはすんなり決まりましたか?

 実はそうでもなくて。最初は円柱型をベースにした構造体を考えたのですが、大きさや重量、展示空間での見せ方などを考慮していくと現実性がありませんでした。また、ガラスを使うなら平面性を活かしたほうが塊的な立体よりも面白い作品ができそうだと感じました。現実的な実現性とガラスの特性の双方を考えるうちに、最終的に今回の形に落ち着きました。
 アンティークグラスは手作りなので機械製のように真っ平ではなく、かすかな凹凸や線が表面に残っているのも魅力の一つです。本作では作品にライトを投影し、ガラスに含まれる波紋のような形も壁面への映り込みで見ていただけるようにしました。

試作品
試作品を作り、設置方法などを検討

——制作の苦労や困難はありましたか? また、本作をどう見てもらいたいですか。

 これまで変形する作品は試作品のような感じで作ってきて、きちんと展示したことはありませんでした。手に取り形を変え遊んでもらうことを想定しているので、ある種の〝オモチャっぽさ〟があり、どう見せたらいいか悩んでいました。今回実際に展示する機会をいただき、鑑賞者の存在を意識した作品が実現できて良かったと思います。会場では作品を触っていただくことはできませんが、可動性は分かると思いますので、頭の中で動かして想像してもらえるといいですね。今回の制作を通じて、僕の中で「遊ぶ」は大きな位置を占めていることも改めて気づきました。

工房でのライティング実験
仮設置してライティングを検討

——世界的彫刻家のイサム・ノグチ*³も、鑑賞者が実際に体験できる「遊べる彫刻」をいくつも制作しています。

 僕の制作の根っこにあるのは、子供の時に楽しんだブロック遊びです。単純な形を組み合わせて、ロボット型など複雑な形状を作り上げるのがとても楽しかった記憶があります。それをモチーフやスケールを変えながら続けているのが「変形態」のシリーズという感じがあります。

*2 Computer Aided Designの略語で、コンピューターを使った設計や設計支援ツールを指す。

*3 米国の現代彫刻家。1904年に日本人の父と米国人の母の間に生まれ、幼少年期を日本で過ごす。主に石を使い簡潔ながら優美なフォルムの彫刻を制作し、庭園やプロダクトデザインも手掛けた。1988年死去。

ものづくりの楽しさに目覚め美術の道へ

——小見さんは5年制の長岡工業高等専門学校(新潟県長岡市)を卒業後、東京の武蔵野美術大学に進学しました。いつ頃から、なぜ彫刻に興味を持ったのですか?

 長岡市で育ち、ロボットを作りたいと思って長岡高専の電子制御工学科に入学しました。しかし、自分のものづくりに対する興味を突き詰めて考えてみると、より直接かたちを作ることに関心があると気づきました。悩んでいた時、父親に「美大に行けば論文を書かなくても作品を作れば卒業できるらしいぞ」と言われ、美大の存在を意識するようになりました。中学高校の技術の教諭をしている父は、美術が好きなので、そんなアドバイスをくれたようです。
 当初進路は工業デザインを考えたのですが、たまたま武蔵野美術大学のオープンキャンパスに行く機会がありました。相談窓口で彫刻科の教授から話を聞くうちに、制作に対する自由な姿勢や彫刻の可能性に感銘を受けて、ここで学びたいと考えるようになりました。

——大きな方向転換ですね。美大受験は大変でしたか?

 地元にも美大予備校はありましたが、僕以外に彫刻科志望の学生はおらず、十分な受験準備はできませんでした。高専は3年生を修了すると大学受験資格が得られるので、4年次に武蔵野美術大学の推薦入試を受験しました。その時は面接を受けた教官全員から「高専を卒業してから来たほうがいいよ」と言われて落ち、翌年に合格しました。当時から人体や骨格に関心があったので、入試では骨をモチーフに針金や紙、スタイロフォーム*⁴で作った立体物を提出しました。

——どのような美大生活でしたか?

 美大専門の予備校を経て入学した学生はデッサンが上手だし、すでに基礎訓練を受けています。そのせいか、授業や与えられる課題は好まない人が多かった印象がありました。でも僕は何でも新鮮に感じたし、ものを作ること自体がすごく楽しかった。高専の時は座学がつらかったもので(笑)、体を動かして制作できる環境は開放感がありましたね。
 彫刻科の1年生はまず、塑像や木彫、石彫、焼き物など、さまざまな作品の素材を実際に触って、特徴や扱い方を学びます。3年生以降は工房が自由に使え、選んだ素材を使って作品を作り、先生の講評を受けます。僕はいろいろと試して、主に御影石で彫刻を制作するようになりました。

——念願の美大生活はいかがでしたか?

 ものを作りたいという自分の方向性が分かって進学したので、とても充実していました。

——国際瀧富士美術賞の受賞作品は、紙のレシートを素材に使っていましたね。

 大量に溜まってしまったレシートを糊で張り重ねて彫りました。受賞は大きな励みになりましたし、奨学金で卒業制作の費用をかなり賄えたのもありがたかったですね。

レシートの解剖
『レシートの解剖』2016年、レシート、W145×H60×D40mm、第37期国際瀧冨士美術賞応募作品
静かな、モノ、動く、カベ
『静かな、モノ、動く、カベ』2019年、東京藝術大学 大学院修了制作

*4 発泡プラスチック系断熱材。押出発泡ポリスチレン。

ロボットから芽生えた人体への関心

——メインの素材に石を選んだのはなぜでしょうか。

 柔らかく加工がしやすい素材だと形が容易に出てしまいます。でも石は削るのに時間がかかり、なかなか目標の形にたどり着けません。目指す形態をひたすら削りながら探していくスピード感が、僕にはちょうど良かった。削る作業自体もとても好きですし。

——小見さんの石の作品は、骨格や体内構造の一部をモチーフにしています。骨や人体に関心を抱いたきっかけはありますか?

 高専時代のロボットから入り、人体の構造に関心を持つようになりました。ロボットは人間の姿形や動態を人工的に再現しますが、そうした形や動きが成りたつ理由を探るうちに、体の内側に視点が向きました。大半の生物は皮膚を剥ぐと筋肉や脂肪があり、下に骨があります。その骨格の構造に対して筋肉が付いて動きが生まれるわけですね。動きの中で決まってきた、例えば関節の形状などは本当に無駄がない美しさがあります。人体を構成する様々な部位は、形状の一つ一つに意味があるのが興味深く、形自体も非常に魅力的です。
 骨の構造は、人体模型や動物の骨格標本を観察していました。美大在学中は「骨部」という学内サークルに所属し、スッポンをまず鍋にして皆で食べて、骨格標本を作るなどしていました。昨日外食した時も、みそ汁にカニが入っていたのですが、味わうのを忘れて脚の観察に熱中してしまいました。人目がある場所では、やらないほうがいいですね(笑)。

——石であるにも関わらず、小見さんの作品からは有機的な動きや軽やかさを感じます。どのような手順で制作するのですか?

 実際に人体模型や骨格標本を見ながらモチーフを考え、油粘土でマケット*⁵を作ります。目標とする形は決めたうえで削っていきますが、最後のほうではマケットは見ずに石自体の緊張感と向き合って彫り進めます。骨が持つ限界ギリギリの軽さや薄さも意識して、最終形を作り上げます。

——具体的な部位をモデルにしているのですか?

 例えばこの作品『人態』は人間の頭蓋骨の一部ですが、実物の形をなぞっているわけではありません。時間をかけて観察して自分の中で有機的な形状や構造を抽出し、再構成しています。

『人態』
『人態』2017年、黒御影石、104×135×70cm

ずっと石は彫り続けたい

——東京藝術大学大学院を修了し、現在は東京・八王子のアトリエで制作を行いながら武蔵野美術大学が2019年に開設した市ヶ谷キャンパスの制作スタジオのスタッフもされています。どのようなお仕事ですか?

 
 市ヶ谷キャンパスでは様々な工作機械が設置されている制作スタジオの管理を務め、道具、機械の管理や使い方のレクチャーを行っています。僕自身、これまでの作品の試作段階でCADでの設計やレーザーカッター等のデジタル工作機械を使用していたので、身につけた技術を業務で生かしつつ、自己研鑽をさせていただいています。

——少しシビアな質問になってしまうのですが、美術の中で彫刻は専業作家としてやっていくのが最も難しい分野だと言われます。今後についてどうお考えですか。

 大学卒業時に思ったのは、「ずっと石は彫り続けたい」ということです。しかし、石の彫刻作品は重量がありスペースも必要なので、平面作品ほど気軽に購入できず、マーケットも限られています。石のほかに創作の幅を広げたい思いもあって、変形する構造体「変形態」の試作を重ね、今回作品として発表する機会をいただきました。今後、この二つのバランスを取りながら制作していこうと思っています。様々な人と接する制作スタジオの仕事も楽しんでいます。仕事と制作をしっかりと両立して、良い作品を生み出せる環境をつくっていきたいと思っています。

*5 彫刻を制作する際、あらかじめ粘土などで試作的に作るひな型。

小見拓

小見 拓こみ たく

1991年新潟県生まれ。長岡工業高等専門学校電子制御工学科卒業後、2013年武蔵野美術大学入学、16年に第37期国際瀧冨士美術賞優秀賞受賞。17年同大学彫刻学科卒業。19年東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。16年いりやKOUBO公募展大賞受賞、17年平成28年度武蔵野美術大学造形学部卒業制作優秀賞、アートミーツアーキテクチャー入選。20年シブヤ・アロープロジェクト- 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い活動が制約されているアーティスト応援企画に採用される。17年9月と19年1月にいりや画廊、11月にギャラリーSOLにて個展開催、その他グループ展にも多数参加している。

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