国際瀧冨士美術賞OBインタビュー
大成 哲 OHNARI Tets

国際瀧冨士美術賞OBインタビュー:大成 哲

国際瀧冨士美術賞OBインタビュー
大成 哲 OHNARI Tets

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インタビュー

彫刻家の大成 哲さんは国際瀧冨士美術賞の第24期受賞者で、2010年からチェコに居を構えて制作に励む。その作品はチェコと日本ばかりでなく、ルーマニア、ハンガリーなど東欧各国でも展示され、また外国人アーティストとの交流にも積極的で、グローバルに活躍する日本人アーティストの1人だ。チェコに行った理由、創作への思い、アートにおける異文化交流などについてお聞きした。

受賞当時とその後の活動について

著名な芸術家の方が受賞されてきた歴史ある美術賞を、自身が評価していただいて受賞できたことは、大きな自信になりました。

——美術賞を受賞された当時(学生時代)のことについてお聞かせください。 彫刻科に在籍しながら様々なことに挑戦されていたかと思うのですが、当時どのようなことに関心がありましたか?

当時はやはり他の美大生と同じように、自分は将来何になるのだろうか、プロのアーティストとは何なのか、そんなことを考えながら作品を制作する日々でした。また、海外へ出てみたい、という漠然とした思いもあったと思います。

——なぜ、在学中に国際瀧冨士美術賞に応募しようと思われたのですか?

今でこそ様々な助成金をいただいたり、レジデンス(Artist in Residence)*1に参加させていただいたりしておりますが、実は私にとって瀧冨士美術賞は初めて頂いた賞与です。応募のきっかけは、単純に何かに挑戦してみたかったこと、第三者から評価されてみたかったことなどです。

*1 レジデンス(Artist in Residence):
国内外のアーティストを一定期間ある土地に招聘し、滞在中に創作活動をしてもらう制度や事業。世界各国の企業・団体や政府によって企画されており、滞在中の活動支援のほか、文化交流の一環として展覧会が開催されることもある。

——美術賞を受賞した時について、印象に残っていることを教えてください。

大変嬉しかったと共に緊張しました。また、自分と同時に受賞された他の学生の方々のことも、どんな人でどんな作品を作っているのだろう、と気になったのも覚えています。これまで数々の著名な芸術家の方が受賞されてきた歴史ある美術賞を、自身が評価していただいて受賞できたことは大きな自信になりました。

写真1:『manebi』
写真1:『manebi』
制作年:2007
素 材:ガラス、LEDライト、鉄
サイズ:100×200×90cm,2piece
場 所:東京藝術大学大学美術館

——日本の大学を卒業後、留学先としてチェコや海外を選ばれた理由は?

海外で生活しながら制作をしてみたい、という思いは学生時代からずっと抱いていたものでしたが、具体的にどこの国に行きたい、という希望はそれほど無かったと思います。留学先としてチェコへ行くことになったのは、2005年にチェコ政府奨学金を受賞したことがきっかけです。それまでにもチェコへは何度か旅行経験があり、なんとなく馴染みのある国ではありました。ですが旅行するのとは違い、実際にチェコで生活をするようになると、言葉や文化の違いなど、様々な壁にぶつかりました。それと同時に、美しい街並みや安くて美味しい食べ物、ビール、またそこで出会う多種多様なバックグラウンドをもつユニークな人々など、この国で自分を取り巻くいろいろなものに惹かれていきました。また、チェコはヨーロッパの中心に位置する国なので、他のヨーロッパ諸国のアートシーンへも容易にアクセスできます。後付け的ではありますが、それもまた、チェコを選んでよかったと思う要因の一つです。(写真1)

——留学後も海外(チェコ、ルーマニア、ハンガリー、オーストリア等)で作品発表を重ねられていますが、日本国内と海外での反応に違いなどはありますか?

作品を観てくださった観客の方々の反応は、ある意味では日本国内と海外でそれほど変わり無いと思います。というのも、一つの作品を制作し実際に展示するまでには、その作品を取り巻く様々な要因(例えば制作過程、キュレーターや観客の方々との対話、展示空間など)があり、まさに”作品は作品のみにあらず”、観る人によって反応は千差万別という感じだからです。
ただ、文化的背景の違いによる反応の差異は少なからずあるかもしれません。自分がヨーロッパに住む日本人である以上、日本にいるよりも余計に自身の日本人的な美的感覚を意識させられたり、あるいは意識下にそのような感覚があったりします。そういった感覚が作品に反映されることもしばしばあり、そのような作品に対して、自分とは違う文化的背景を持ち合わせている海外の方から新鮮な意見を頂いたり、そこから新たな発見が出来たりという経験も、これまでに何度もありました。

作品について

自分の深いところにある言葉にならない、漠然とした部分を拾いあげ、それを彫刻という手段をとって表現に繋げているのだと思います。

——作品についてうかがいます。ウェブサイトなどに掲載されている作品を拝見しました。
ひとつの形から、壊し、あるいは分離した後、その形が別の表情をもつ物体として再構成されつつも、かえってその「壊す」という行為によって関係性や繋がりの強さが際立っています。作品作りにおいて「対」「対比性」「破壊」という言葉が重要なキーワードになっていますが、いつごろからこれらのテーマに向き合うようになったのでしょう? また、そのきっかけはありますか?

今思い起こしてみれば、自分が幼い頃からずっと気になっていたことであり、これらのテーマには昔から向き合ってきたように思います。その根底に“ものをつくるとはどういうことか?”という問いがあり、挙げていただいたようなキーワード、「対」「対比性」「破壊」などは、そのような問いに対する答えを見つけ出すためのヒントのようなものなのかもしれません。また、これまで様々な素材を手にして作品を制作してきましたが、それらの素材がどこから来てどこへ行くのか、ということをいつも考えさせられます。いずれにせよ、自分の深いところにある言葉にならない、漠然とした部分を拾いあげ、それを彫刻という手段をとって表現に繋げているのだと思います。

写真2:『make, be made』
写真2:『make, be made』
制作年:2006
素 材:砂岩

サイズ:100×100×100cm, 220×139×280cm

場 所:彫刻国際シンポジウム(チェコ ホジツェ)

具体的な体験の例を挙げるならば、2006年に参加した、チェコ、ホジツェでの国際彫刻シンポジウムでのことをよく覚えています。このシンポジウムで私は、[make, be made](写真2)という作品を制作しており、長さ2メートルを超える巨大な岩に穴を開け、その中に入り込み、直径約1メートルの球形の空洞を掘っていました。岩の内側から岩を削っていくと、当然岩の中にその削りカスが溜まっていき、何日もそれを続けていると次第に自分自身もそのカスに塗れ、埋まっていきました。自分は岩の中に空洞をつくると同時に、気づけば大量の削りカスもまたつくり出していたのでした。ふとそのことを感じた時、一体自分が何をつくっているのか訳が分からなくなり、不思議な感覚に陥りました。それからより一層、これらのテーマについてもっと探求したいと考えるようになりました。

展覧会「reflection」について

この独特な時間と空間の中で、作品を観る方々の中にあらゆる感覚が映し出されれば、と願っています。

——この2月からスロバキア西部の都市トルナヴァで個展「reflection」を開催中ですね。会場となるギャラリーは、元シナゴーグ*2だったそうですが、アジア人で初めてこの会場で展示を行うことについてお聞かせください。

これまで、チェコやスロバキア、ルーマニア、ハンガリーなど様々な東欧諸国での展示を行ってきましたが、これらの国のアートを語る上で、やはり共産時代という歴史的背景が重要になってくると思います。今回展示をさせていただくヤン・コニアレック・ギャラリー*3もまた、そういった歴史があった中で、これから国際文化都市として現代アートを切り開いていこうという強い意志を持っており、そのことも今回の展示が実現した要因の一つだと思います。東欧に拠点を置くアジア人として、そのような情熱あふれるギャラリーに寄与できることは大変嬉しいです。また、このシナゴーグの建築様式と雰囲気は建てられた当時(1897年)のまま保存されており、このような広大で荘厳な雰囲気を持つ空間で現代アートの展示ができることは、世界でも極めて稀なことだと思います。アーティストとしても、このような素晴らしい場所で個展ができることが非常に喜ばしいと共に、大きな挑戦となりました。

*2 シナゴーグ:
ユダヤ教の礼拝所・会堂。信仰の場であると同時に、教育、結婚などユダヤ教徒の社会生活を支えるコミュニティ・センターの役割も果たしている。その歴史的背景から、国の文化保護区や世界遺産に指定されているシナゴークもある。

*3 ヤン・コニアレック・ギャラリー:
元シナゴーグとして使われていた建物を改修し作られた現代美術ギャラリー。シナゴーグが持つ歴史的背景や独特の雰囲気を残して、現代美術の展覧会を中心に、コンサートや講演も開催されている。

個展『reflection』展示リーフレット
個展『reflection』展示リーフレット

この場所でどんな展示をしようかと考えた時、やはり“シナゴーグ”という空間の特殊性は無視できないものでした。そしてユダヤの象徴である “ダビデの星”を模ったこのシナゴーグの飾り窓からインスピレーションを受け、モチーフとして採用しました。
三角形の木枠にガラスをはめ込んだ窓を蝶番でつなぎ、“ダビデの星”というモチーフを様々な幾何学模様に変化させたオブジェクトを制作し、天井から吊り下げていきました。再奥に見えるダビデの星を模ったシナゴーグの飾り窓があらゆる形に変化していく様子を、広い空間を歩きながら様々な角度から眺めていただけます。(写真3/写真4)
この個展のタイトル、また作品名でもある“reflection”(リフレクション)には、反響、反映、反射などの意味がありますが、その動詞型の“reflect”(リフレクト)には、再現する、という意味も含まれています。元シナゴーグの場所にユダヤ教の象徴であるダビデの星を再現し、さらにそれを変化させたオブジェクトが並ぶこの独特な時間と空間の中で、作品を観る方々の中にあらゆる感覚が映し出されれば、と願っています。

写真3:『reflection』
写真3:『reflection』
制作年:2016
素 材:木、ガラス、ワイヤー
サイズ:12×7.5×17m
場 所:ヤン・コニアレック・ギャラリー(スロバキア トルナヴァ)

写真4:『reflection』
写真4:『reflection』
制作年:2016
素 材:木、ガラス、ワイヤー
サイズ:12×7.5×17m
場 所:ヤン・コニアレック・ギャラリー(スロバキア トルナヴァ)

日本交通文化協会へひとこと

——アーティストを取り巻く環境は厳しいものの、国・自治体の助成のほか、企業・団体による芸術・文化活動への支援も増えています。国内外で作家活動を続けている中で、どのようなサポートを経験なさっていますか?

これまでアーティスト活動を通して、数多くの国内外の企業や団体からご支援いただいてきました。そのようなご縁からさらに発展し、一企業・一アーティストとしてお互いがより発展していくために、現在スポンサー契約という形で提携させていただいている企業が複数あります。この機会に、ぜひ紹介させていただきたいと思います。
株式会社カセヤマは、岡山県玉野市にある鳶装束、匠装束専門メーカーです。私は元々、国産にこだわってつくられているカセヤマ作業着のファンであり、作業時やパーティーの際に好んで着用しておりました。そんな中でご縁があってスポンサーとして提携させていただき、現在作業着を定期的に提供いただいております。
UNIMAGNETは、チェコのマグネット会社です。この会社のマグネットは種類が大変豊富であり、以前から作品制作の際に様々な用途で使用させていただいておりました。現在では、スポンサー提携を通して作品に必要なマグネットを提供していただいております。
このように定期的・継続的なご支援をしていただけることは、自身のアーティスト活動をサポートしていただけるだけでなく、アーティストとして社会とのつながりを持てる大切な機会でもあると考えております。

——日本交通文化協会は、国際瀧冨士美術賞に加えて、これから美術を志す学生や、若いアーティストへの支援の展開を検討中です。「こんなサポートがあったらいいのでは?」というご意見がありましたらお聞かせください。

美術賞を受賞したのちに、展示開催やシンポジウムへの招聘、日本交通文化協会とのコラボレーション企画など、奨学金ではない形での永続的なサポートがあれば、若いアーティストたちが世に出るきっかけになるのではないかと思います。

大成 哲

大成 哲OHNARI Tets

東京都八王子市出身。2004年、日本大学芸術学部を卒業。同年東京藝術大学大学院入学。2005年、チェコ政府奨学金を取得しチェコ共和国、プラハへ留学。プラハ美術アカデミー(AVU)とプラハ工芸美術大学(VSUP)に各1年ずつ在籍。2008年、東京藝術大学大学院修士課程を修了。
東京とチェコに滞在し、ガラス、石、木などを用いて彫刻、インスタレーションを制作し、国際的な活動を精力的に行なっている。

公式スポンサー

展覧会情報

スロバキア

『TETS OHNARI: reflection』

『Tets Ohnari:reflection』

会期:2016年2月18日(木)~4月28日(木)
会場:Jan Koniarek Gallery(スロバキア、トルナヴァ)
ギャラリーホームページ:

ルーマニア

『Solo Exhibition』

photo comingsoon

会期:2016年5月予定
会場:H’art Gallery(ルーマニア、ブカレスト)

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